OSSで実現する効率化・コスト削減

商用監視システムからの脱却:Zabbix活用で実現した運用効率化とコスト削減事例

Tags: Zabbix, 監視, 運用効率化, コスト削減, 商用ソフトウェア移行

はじめに

多くの企業において、システムの安定稼働は事業継続の基盤となります。そのため、サーバー、ネットワーク機器、アプリケーションなど、多様なITリソースに対する監視は不可欠な運用業務です。しかし、システム規模の拡大や技術スタックの多様化に伴い、監視対象は増加し、運用負荷やコストが増大するという課題に直面することも少なくありません。本記事では、複数の商用監視ツールと一部のOSSツールが混在し、非効率な運用と高コストに悩んでいた組織が、OSSであるZabbixを統合監視基盤として採用することで、これらの課題をどのように克服し、運用効率化とコスト削減を実現したかの事例をご紹介します。

導入前の状況:監視のサイロ化と運用コストの増大

当該組織では、長年のシステム増強を経て、サーバー監視にはA社のツール、ネットワーク機器監視にはB社のツール、特定アプリケーションの監視にはC社のツール、その他一部に特定のOSSツール、というように、機能や対象ごとに複数の監視システムが導入されていました。

この状況は、以下のような問題を引き起こしていました。

これらの課題は、技術部門全体の効率性を低下させ、IT予算を圧迫する深刻な問題となっていました。

導入の意思決定とZabbixの選定

組織は、これらの課題を抜本的に解決するため、統合監視基盤の導入を検討することにしました。統合監視の目的は、以下の3点に集約されました。

  1. 運用効率化: 監視システムを一元化し、運用担当者の負担を軽減する。アラート対応プロセスの標準化・迅速化を図る。
  2. コスト削減: 商用監視ツールのライセンス費用を削減し、全体の監視関連コストを最適化する。
  3. 可視性向上: システム全体の健全性、パフォーマンス、稼働状況を一元的に把握できるダッシュボードを構築する。

複数の商用統合監視ソリューションとOSSの統合監視ツールが比較検討されました。商用ソリューションは手厚いサポートや洗練されたUIが魅力でしたが、既存の商用ツールの課題であった高コスト構造を引き継ぐ可能性があり、慎重な検討が必要でした。

一方、OSSの統合監視ツールとしては、Zabbixの他にNagios、Prometheus/Grafanaなどが候補に挙がりました。比較検討の結果、Zabbixが以下の理由から最適と判断されました。

導入にあたっては、「OSSであるため、商用製品のようなベンダーの手厚いサポートがないこと」「既存の複雑な監視設定をZabbixに移行する作業負荷」「運用担当者のZabbixに対する習熟度向上」などが懸念されました。これに対し、社内でのZabbixトレーニング実施計画、段階的な移行計画、そして必要に応じた外部のOSSインテグレーターとの連携を対策として立案しました。

具体的な導入・活用プロセス

Zabbixの導入は、リスクを最小限に抑えるため、段階的に進められました。

まず、検証環境および一部の非基幹システムを対象にスモールスタートを実施しました。Zabbixサーバー、データベース(PostgreSQLを使用)、Webインターフェースを構築し、Zabbix AgentやSNMPを使用して監視対象のメトリクス収集を開始しました。既存の監視設定を分析し、Zabbixのアイテム、トリガー、テンプレートとして定義し直す作業を行いました。

この初期フェーズで得られた知見(パフォーマンスボトルネック、テンプレート設計のノウハウ、アラート設定の最適化など)を基に、本格的な全社展開計画を策定しました。

導入によって得られた成果

Zabbixを統合監視基盤として導入した結果、以下のような顕著な成果が得られました。

直面した課題と克服

もちろん、導入プロセスは全てが順調だったわけではありません。いくつかの課題に直面しましたが、それぞれ対策を講じて克服しました。

まとめと今後の展望

本事例は、複数の監視システムが混在し、運用負荷とコスト増大という課題を抱えていた組織が、OSSであるZabbixを統合監視基盤として導入することで、大幅なコスト削減と運用効率化を実現した成功事例です。

成功の要因としては、単にOSSを導入するだけでなく、統合監視という明確な目的設定既存システムの状況を詳細に分析した上での段階的な導入計画、そしてZabbixの特性を理解し、それに合わせた運用体制を再構築したことが挙げられます。特に、監視設定の標準化やテンプレート活用は、長期的な運用効率に大きく寄与しました。

この事例から得られる示唆として、技術部門責任者層の皆様には、以下の点が参考になるかと存じます。

今後の展望として、この組織ではZabbixで蓄積した監視データを、機械学習を活用した異常検知や将来的なリソース予測に活用すること、さらに自動復旧の対象範囲を広げることなどを検討しており、OSS統合監視基盤の可能性をさらに追求していく予定です。本事例が、皆様の組織におけるOSS活用による効率化・コスト削減の取り組みの一助となれば幸いです。