OSSで実現する効率化・コスト削減

既存システム連携を非同期化:RabbitMQ活用で達成した運用負荷軽減とコスト最適化

Tags: RabbitMQ, メッセージキュー, 非同期処理, システム連携, コスト削減, 運用効率化, アーキテクチャ刷新

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーションが進むにつれて、システム数は増加し、それらの連携は複雑化の一途をたどります。特に、長年運用されてきた既存システム群との連携においては、同期的な処理がボトルネックとなり、システム全体のパフォーマンス低下や運用負荷増大を招くケースが少なくありません。本稿では、このような課題に対し、オープンソースのメッセージキューであるRabbitMQを導入し、システム間連携を非同期化することで、運用負荷の軽減とリソースコストの最適化を実現した事例をご紹介いたします。

導入前の状況:同期連携による課題

当該組織では、複数の基幹システムや新規サービスが稼働しており、データ連携や処理のトリガーは主に同期的なAPI呼び出しや直接的なデータベースアクセスによって行われていました。

このアーキテクチャには、以下のような課題が存在していました。

これらの課題は、運用担当者の負担増大、サービスレベルの低下、そして不要なインフラコストの増加という形で現れていました。商用メッセージキュー製品の導入も検討されましたが、ライセンスコストが膨大になることから、代替手段が模索されていました。

導入の意思決定とRabbitMQの選定

既存の課題を解決し、将来的なシステム拡張にも柔軟に対応できるアーキテクチャへの転換が急務と判断されました。技術部門責任者層は、システム間の依存関係を排し、疎結合化を実現する手段として、非同期メッセージング基盤の導入を戦略的に検討しました。

OSSのメッセージキュー/イベントブローカーの中から、以下の点を考慮してRabbitMQが選定されました。

Kafkaも有力な候補として比較検討されましたが、この時点での主要な課題がシステム間のメッセージングによるタスクキューやシンプルなPub/Subによる疎結合化であったため、より汎用的なメッセージキューとしての機能が充実しているRabbitMQが優先されました。大規模なストリーム処理や永続的なイベントログとしての活用が主目的となるフェーズでは、Kafkaの検討を改めて行う方針としました。

導入における懸念点としては、RabbitMQの運用ノウハウの蓄積不足や、高可用性構成の実現が挙げられました。これに対し、先行的な検証環境でのプロトタイプ開発、主要メンバーへの集中的なトレーニング、そしてクラスタリング構成に関する詳細な技術調査といった対策が講じられました。

具体的な導入・活用:非同期化への移行

RabbitMQの導入は、既存システムへの影響を最小限に抑えるため、段階的に進められました。まずは、最もボトルネックとなっていた特定のバッチ処理におけるシステム間連携部分から、非同期メッセージングへの移行を開始しました。

具体的なアーキテクチャとしては、メッセージを送信するシステムを「Publisher」、メッセージを受信・処理するシステムを「Consumer」とし、その間にRabbitMQを配置しました。Publisherは処理が必要なデータをメッセージとしてRabbitMQに送信し、すぐに自身の処理を継続します。RabbitMQは設定されたExchangeとQueueに基づいてメッセージをルーティングします。Consumerは自身の準備ができたタイミングでQueueからメッセージを取得し、非同期に処理を実行します。

これにより、PublisherはConsumerの状態や処理時間に依存することなく、次々と処理を進めることができるようになりました。特に夜間バッチ処理においては、従来の逐次処理から、メッセージキューを活用した並列処理へと変更することで、処理能力を大幅に向上させることが可能となりました。

また、障害発生時の影響範囲を局所化するため、重要なメッセージについては永続化オプションを有効にし、Consumer側でメッセージのべき等処理(同じメッセージを複数回受け取っても問題なく処理できるロジック)を実装しました。エラーが発生したメッセージはDead Letter Queueに転送し、運用担当者が後から原因調査や再処理を行える仕組みも構築しました。

導入によって得られた成果

RabbitMQによる非同期メッセージング基盤の導入は、計画通り、あるいはそれ以上の効果をもたらしました。

直面した課題と克服

導入・運用を通じて、いくつかの課題にも直面しました。

まとめと今後の展望

本事例は、OSSであるRabbitMQを活用し、既存システムの同期連携を非同期化することで、運用負荷の軽減とリソースコストの最適化という具体的な成果を達成したものです。単に特定の技術を導入するだけでなく、システムアーキテクチャ全体を見直し、ビジネスの変化に柔軟に対応できる基盤を構築する一歩となりました。

OSSのメッセージング基盤は、商用製品に比べてライセンスコストを抑えつつ、高い機能性と柔軟性を提供します。特に、既存システムが多く存在するエンタープライズ環境において、段階的なアーキテクチャ刷新を進める上での強力なツールとなり得ます。

今後は、RabbitMQで培った非同期処理のノウハウを活かし、マイクロサービス間のイベント駆動型連携への適用拡大や、より大規模なデータストリーム処理が必要となる場面でのKafkaなど他のOSSメッセージングプラットフォームの導入も視野に入れ、更なるシステム全体の効率化とコスト削減を目指していく方針です。この事例が、同様の課題を抱える他の組織におけるOSS導入の意思決定の一助となれば幸いです。