OSSで実現する効率化・コスト削減

大規模サービスを支えるデータベース接続最適化:PgBouncerによる効率化とコスト削減事例

Tags: PgBouncer, データベース, コネクションプーリング, PostgreSQL, コスト削減, 運用効率化

導入部

企業のビジネス成長に伴い、システムへのアクセスが増大し、特にデータベースへの接続数が顕著に増加することは少なくありません。多数のデータベースコネクションは、データベースサーバー自体のリソース(メモリ、CPU)を圧迫し、応答性能の低下を招くだけでなく、それを処理するアプリケーションサーバー側のリソースも消費します。結果として、インフラストラクチャ全体のスケールアップやスケールアウトが必要となり、コストが増大する課題に直面することがあります。

本記事では、このような課題に対し、オープンソースのコネクションプーラーであるPgBouncerを導入することで、データベース接続を効率化し、具体的なコスト削減と運用効率の向上を実現した事例をご紹介します。これは、技術的な課題をビジネス上の成果に繋げるための戦略的意思決定の参考となる情報を提供することを目的としています。

導入前の状況

この事例の対象となったシステムは、数百万人のアクティブユーザーを抱える大規模なWebサービスであり、バックエンドにはPostgreSQLデータベースが利用されていました。アプリケーションサーバーは多数インスタンスが稼働しており、各インスタンスがデータベースへのコネクションを必要に応じて確立・切断していました。

システムの成長に伴い、以下の問題が顕在化していました。

これらの課題は、システムの持続的な成長を阻害し、ビジネスの俊敏性を損なう可能性がありました。

導入の意思決定と選定

技術部門責任者層は、これらの課題を解決するために、抜本的な対策が必要であると判断しました。データベースサーバーの更なるスケールアップは短期的な解決策にしかならず、コスト構造を悪化させるため、より効率的なデータベース接続管理を検討しました。

その中で、オープンソースのコネクションプーラーであるPgBouncerが有力な候補として挙がりました。PgBouncerを選定した主な理由は以下の通りです。

導入にあたっては、以下の懸念点も検討されました。

これらの懸念に対し、可用性確保のためのPgBouncerクラスター構成(冗長化)の検討、PoC環境での詳細な性能評価と設定チューニング、アプリケーション側でのPgBouncerの利用を前提とした接続管理ロジックの見直しといった対策を講じる方針を定め、導入が意思決定されました。

具体的な導入・活用

導入は段階的に進められました。まず、一部のアプリケーションサーバー群からのデータベース接続をPgBouncer経由に切り替えるPoCを実施し、期待される効果と潜在的な課題を詳細に評価しました。

システム構成としては、各アプリケーションサーバーからのデータベース接続先を直接のデータベースサーバーではなく、PgBouncerサーバー群に変更しました。PgBouncerサーバー群は、Keepalivedなどを用いて冗長化され、フェイルオーバー構成とすることで単一障害点のリスクを低減しました。

データベース接続が多い主要なAPIサービスから順次PgBouncer経由の接続に切り替えを実施しました。アプリケーションの特性に合わせて、Transaction poolingモードを基本としつつ、一部のバッチ処理などではSession poolingモードを利用しました。

設定においては、max_client_conn(PgBouncerへの最大クライアント接続数)、default_pool_size(各ユーザー/データベースに対するデフォルトのサーバーコネクションプールサイズ)、pool_modeなどを慎重にチューニングしました。特にdefault_pool_sizeは、アプリケーションのピーク時の同時DB接続要求数を考慮して設定し、データベースサーバー側で実際に維持されるコネクション数が抑制されるように調整しました。

移行プロセスでは、トラフィックを少量ずつPgBouncer経由に流し、並行稼働させながらメトリクスを詳細に監視することで、問題発生時の即時切り戻しが可能な体制を構築しました。

導入によって得られた成果

PgBouncerの導入により、以下の具体的な成果が得られました。

これらの成果は、単なる技術的な最適化に留まらず、インフラコスト構造の改善、開発・運用組織全体の生産性向上、そして最終的なユーザー満足度の向上という、ビジネスに直結する貢献となりました。

直面した課題と克服

導入および運用中にいくつかの課題に直面しましたが、適切に対処することで克服できました。

これらの課題を乗り越える過程で、PgBouncerの内部動作に関するチームの理解が深まり、より堅牢な運用体制を築くことができました。

まとめと今後の展望

本事例は、オープンソースのPgBouncerを活用し、大規模サービスのデータベース接続における非効率性を解消することで、顕著なコスト削減と運用効率の向上を実現した成功事例です。技術的な専門知識を活用してシステムのボトルネックを特定し、適切なOSSソリューションを導入することで、ビジネス上の明確な成果を達成できることを示しています。

特に、データベースコネクション管理は、システムの規模が大きくなるにつれて見過ごせない課題となります。PgBouncerのようなコネクションプーラーは、既存のアプリケーションコードに大きな変更を加えることなく導入できる場合が多く、費用対効果の高い解決策となり得ます。

この事例から得られる教訓は、単に最新の技術トレンドを追うだけでなく、既存システムのアーキテクチャ上の課題を深く理解し、それを解決するための最適なOSSを選択・活用することの重要性です。今後も、システムの成長や変化に応じて、PgBouncerのような基盤技術のさらなる最適化や、他のOSSとの組み合わせによる相乗効果を追求していく方針です。

PostgreSQLを利用されており、データベースの接続数増加によるリソースコストや運用負荷に課題を感じている組織にとって、PgBouncerの導入は検討に値する戦略的な選択肢の一つとなりうるでしょう。