OSSで実現する効率化・コスト削減

OSS活用による機械学習開発・運用プロセス効率化とコスト削減事例

Tags: 機械学習, MLOps, データサイエンス, コスト削減, 効率化

技術部門責任者層の皆様におかれましては、組織の競争力強化に向けて、データ活用や機械学習(ML)への投資を進めていらっしゃるかと存じます。一方で、機械学習プロジェクトの成功には、専門性の高い人材に加え、効率的な開発・運用(MLOps)プロセスと、それに伴うインフラ・ツールの整備が不可欠であり、これらのコストや運用負荷が課題となるケースも少なくありません。

本記事では、ある先進企業が、この機械学習開発・運用における課題に対し、特定のOSS群を組み合わせることで、どのように効率化とコスト削減を実現したのか、その具体的な事例をご紹介いたします。

導入前の状況: MLプロジェクト拡大に伴う課題

この企業では、ビジネス部門からのAI/ML活用ニーズの高まりを受け、データサイエンティストおよびMLエンジニアのチームを拡大していました。しかし、それに伴いいくつかの課題が顕在化していました。

これらの課題は、MLプロジェクトのリードタイム長期化、再現性に関わるリスク、そしてコスト増加に直結しており、技術戦略の観点から抜本的な対策が求められていました。

導入の意思決定とOSS選定

上記課題を解決するため、同社技術部門は新たなMLOps基盤の構築を検討開始しました。選択肢として、フルマネージドの商用MLプラットフォーム、自社開発、そしてOSSの活用が検討されました。

商用プラットフォームは迅速な導入が可能ですが、特定のワークフローへのロックインや、柔軟性の制約、そして高額な利用料が懸念されました。自社開発は完全にカスタマイズ可能である一方、開発・保守に多大なリソースが必要となります。

そこで注目されたのが、MLOps領域で成熟度を増しているOSS群でした。OSSを選択した主な理由は以下の通りです。

OSSとして具体的に選定されたのは、以下のツール群でした。

これらのOSSを組み合わせることで、開発環境の標準化、実験管理の一元化、データ・モデルのバージョン管理、そしてモデルデプロイプロセスの改善を目指す戦略が立てられました。意思決定プロセスでは、各OSSのコミュニティの活発さ、既存システムとの親和性、セキュリティに関する懸念点とその対策(アクセス制御、脆弱性管理)が十分に検討されました。

具体的な導入・活用:基盤構築とワークフローの変化

導入にあたり、同社はこれらのOSSをクラウド環境(例: AWS, GCP, Azureなど)上のコンテナ基盤(Kubernetes)上に構築しました。これは、リソースの効率的な利用、スケーラビリティ、および運用管理の効率化を目的としています。

これらのツールは互いに連携するように設定されました。例えば、Jupyter環境内でMLflow SDKを使って実験を記録し、DVCを使ってデータやモデルを管理するといった具合です。

この基盤導入により、データサイエンティストやMLエンジニアのワークフローは以下のように変化しました。

  1. JupyterHubで標準化された開発環境をブラウザから利用開始。
  2. DVCを使って必要なデータセットを取得。
  3. Jupyterノートブック上でMLflow SDKを利用しながら実験コードを記述・実行。パラメータや結果は自動的にMLflowサーバーに記録される。
  4. DVCを使って生成されたモデルファイルや中間データをバージョン管理。
  5. MLflowのUIで過去の実験結果を確認し、最適なモデルを選択。
  6. MLflowのモデルレジストリに登録し、デプロイプロセスへ連携。

導入によって得られた成果

OSSによるMLOps基盤の導入は、組織に多大な効率化とコスト削減の成果をもたらしました。

これらの成果は、単なるITコストの削減に留まらず、MLプロジェクト全体の成功確率向上、ビジネス部門への価値提供スピード向上という、より広範なビジネス効果に繋がっています。

直面した課題と克服

導入は順調に進んだわけではなく、いくつかの課題に直面しました。

これらの課題に対し、技術チームは継続的な学習と改善を重ねることで、安定した基盤運用を実現しました。

まとめと今後の展望

本事例は、機械学習開発・運用という比較的新しい領域においても、目的とする効率化・コスト削減の目標に対し、個別のOSSを戦略的に組み合わせることが非常に有効であることを示しています。特に、商用ツールの代替としてだけでなく、組織全体の生産性向上、標準化、属人化解消といった質的なメリットも同時に実現できた点が重要です。

この事例から得られる示唆として、技術部門責任者層の皆様にとっては、単に特定のOSSの機能に着目するのではなく、「組織全体のどのプロセスに課題があり、それを解決するためにどのOSS(またはその組み合わせ)が最適か」「導入によってどのような定量的・定性的な成果を目指すのか」という戦略的な視点が不可欠であることが挙げられます。また、OSS導入後の運用・保守体制の構築や、利用者への適切なサポート提供も成功の鍵となります。

この企業では、今後さらに他のOSS(例:Feature Store、モデルサービング基盤など)の導入も視野に入れ、より高度でスケーラブルなMLOps基盤へと発展させていく計画を進めています。OSSを活用した効率化・コスト削減の可能性は、今後も様々な分野で広がっていくと考えられます。