OSSで実現する効率化・コスト削減

Harborによるコンテナイメージ管理効率化とセキュリティコスト削減事例

Tags: Harbor, コンテナ, レジストリ, セキュリティ, コスト削減, 運用効率化

コンテナイメージ管理の課題とHarbor導入による解決事例

クラウドネイティブへのシフトが進む中で、コンテナ技術は多くの組織で標準的なデプロイメント手法となりつつあります。コンテナ活用の拡大に伴い、コンテナイメージの効率的かつ安全な管理は、開発・運用チームにとって重要な課題となります。しかし、適切な管理体制がない場合、イメージの増加によるストレージコストの増大、脆弱性リスクの見落とし、運用負荷の増加といった問題に直面することが少なくありません。

本記事では、コンテナイメージ管理に関する課題を抱えていた組織が、OSSのコンテナレジストリである「Harbor」を導入することで、どのようにイメージ管理の効率化、セキュリティ強化、そしてコスト削減を実現したかの具体的な事例をご紹介します。

導入前のコンテナイメージ管理における状況

この組織では、マイクロサービス化とコンテナ導入を積極的に進めていました。当初は各開発チームが個別にクラウドベンダー提供のコンテナレジストリや、簡易的なプライベートレジストリを利用していました。この状況は、以下のような課題を生み出していました。

これらの課題は、開発スピードの低下、セキュリティインシデントのリスク増加、そして全体的な運用コストの増大を招いていました。

Harbor導入の意思決定と選定プロセス

これらの課題を解決するため、組織はコンテナイメージを一元管理できるプライベートレジストリの導入を検討しました。検討の要件としては、以下の点が重視されました。

複数のOSSおよび商用製品を比較検討した結果、Harborが上記の要件を高いレベルで満たしていると判断されました。特に、HarborはCNCF(Cloud Native Computing Foundation)のGraduatedプロジェクトであり、活発なコミュニティと豊富な機能を備えている点が評価されました。脆弱性スキャン機能がデフォルトで統合されていることも、セキュリティリスク削減を重視する上で大きな決定要因となりました。

導入における懸念点としては、OSSであることによるサポート体制、組織内での運用ノウハウの蓄積、そして開発チームへの利用浸透が挙げられました。これに対し、組織は専任の運用チームを編成し、公式ドキュメントやコミュニティ情報を活用したノウハウ蓄積を進めるとともに、開発チーム向けの説明会や利用ガイドラインの整備を進める方針を固めました。

Harborの具体的な導入と活用

HarborはKubernetes上にデプロイされ、高い可用性を確保するために複数のレプリカを配置しました。ストレージバックエンドには、既存のオブジェクトストレージ(MinIOやS3互換ストレージ)を利用することで、コストを最適化しました。

導入後、以下のような活用を進めました。

導入によって得られた成果

Harborの導入は、組織に以下の定量・定性的な成果をもたらしました。

直面した課題と克服

導入・運用中に直面した課題としては、以下のようなものがありました。

まとめと今後の展望

本事例は、OSSであるHarborを活用することで、コンテナイメージ管理における非効率性、セキュリティリスク、コスト増大といった課題を克服し、効率的でセキュアな開発・運用基盤を構築できたことを示しています。特に、脆弱性スキャンやポリシー適用といったセキュリティ機能を効果的に活用することで、見過ごされがちなコンテナサプライチェーンのセキュリティを強化し、関連コストを削減できた点は重要な成果です。

この事例から得られる教訓は、コンテナ活用が進むにつれて、イメージ管理の標準化と一元化が不可欠であること、そしてOSSを活用することで高いセキュリティレベルを保ちつつコストを最適化できる可能性があるということです。技術部門責任者層としては、単なるコスト削減だけでなく、セキュリティ強化や運用効率向上といった多角的な視点からOSSの価値を評価し、組織全体の技術戦略に組み込むことが重要であると言えます。

今後の展望としては、Harbor Operatorを用いた運用自動化の推進や、Notaryを用いたイメージ署名運用のさらなる強化、さらにはKMS (Key Management System) との連携による鍵管理のセキュリティ強化などが考えられます。