OSSで実現する効率化・コスト削減

DuckDBを活用した高速データ分析で実現したライセンスコスト削減と業務効率化事例

Tags: DuckDB, データ分析, コスト削減, 効率化, OSS

DuckDB活用事例:データ分析環境のコスト削減と効率化を実現

データに基づいた迅速な意思決定は、現代のビジネスにおいて不可欠です。しかし、データ分析基盤の構築と運用には、商用ライセンスコスト、インフラコスト、そしてデータエンジニアリングや分析作業そのものにかかる人的コストなど、無視できない費用が発生します。特に、小規模から中規模のデータに対するアドホックな分析や、データパイプラインの一部としての変換処理において、高性能な商用データベースや大規模分散処理基盤を常時利用することは、コスト効率の面で課題となることがあります。

本稿では、あるエンタープライズ組織が、こうした課題に対し、組み込み分析データベースであるオープンソースソフトウェア(OSS)の「DuckDB」を活用することで、どのようにコスト削減と業務効率化を実現したかをご紹介します。

導入前の状況

この組織では、データ分析基盤として、オンプレミスの商用DWHとクラウド上のマネージド分析サービスを併用していました。データの収集、整形、ロード(ETL/ELT)には、別途商用ツールや自社開発スクリプトを使用していました。

しかし、以下の課題が顕在化していました。

  1. 高額なライセンスコスト: 特に商用DWHとBIツールのライセンス費用が組織全体のITコストの中で大きな割合を占めていました。ユーザー数やデータ量に応じてコストが増加する体系であり、費用対効果の最適化が求められていました。
  2. クラウド分析リソースコスト: クラウド上のマネージド分析サービスは便利である一方、クエリ実行量や処理データ量に応じたコストが発生し、特に開発・検証フェーズでの試行錯誤や、大規模な前処理においてコストが増大する傾向にありました。
  3. データ分析環境のセットアップと運用負荷: 分析担当者やデータサイエンティストが個別の分析を行う際、ローカル環境でのデータ準備や、本番環境へのアクセス設定、必要なツールのインストールなどに時間を要していました。また、ETL/ELTプロセスの一部には処理効率が低い部分が存在し、全体のパイプライン実行時間や運用負荷を増加させていました。
  4. 技術的負債: 長年利用してきた自社開発スクリプトには属人化や保守性の課題があり、改善が必要ですと認識されていました。

これらの課題は、データ活用のスピードを鈍化させ、ビジネスの機会損失につながる可能性も指摘されていました。

導入の意思決定と選定

組織の技術部門は、これらの課題を解決するためのアプローチとして、OSSの活用を検討しました。特に、データ分析ワークフローの特定のボトルネックに焦点を当て、ピンポイントで効率化・コスト削減が可能なOSSを探しました。

検討の結果、DuckDBが候補として挙がりました。DuckDBは、主に以下の理由から選定されました。

導入における懸念としては、比較的新しいOSSであるため、コミュニティの成熟度やエンタープライズレベルでのサポート体制、そして非常に大規模なデータセットに対する適用限界が挙げられました。これに対し、組織ではまずPoC(概念実証)を通じて性能と安定性を評価し、限定的な用途から導入を開始する戦略をとりました。また、コミュニティ活動への貢献や、必要に応じて外部ベンダーのサポートオプションを検討する方針としました。

具体的な導入・活用

DuckDBは、以下のいくつかのユースケースで導入・活用されました。

  1. ローカルデータ分析環境の標準化: 分析担当者が自身のPC上で、CSVやParquetファイル、あるいは既存DWHからエクスポートしたデータに対するアドホック分析を行う際の標準ツールとしてDuckDBを推奨しました。Pythonライブラリを通じて、Jupyter Notebookなどの環境から容易に利用可能としました。これにより、分析担当者が個別に高価なBIツールやクラウド分析環境を利用する頻度を減らすことを目指しました。
  2. ETL/ELTパイプラインの一部最適化: データパイプラインの中で、ファイルの結合、フィルタリング、簡単な集計といったデータ変換処理を、従来のスクリプトや商用ツールの一部からDuckDBに置き換えました。特にS3上のParquetファイルを扱う処理において、DuckDBの直接クエリ機能が有効でした。
  3. 小規模BIレポート生成: 特定の部門向けの小規模な集計レポート生成処理において、DWHからのデータ抽出後、ローカルでDuckDBを使って最終的な集計・整形を行い、レポートツールに渡す構成を採用しました。

具体的な導入プロセスとしては、まず分析チームやデータエンジニアリングチームの一部で先行導入し、技術的な知見を蓄積しました。その後、社内勉強会やドキュメント整備を通じて、利用方法を他のメンバーに展開しました。アーキテクチャとしては、DuckDB自体はライブラリであるため、既存のPythonスクリプトやデータパイプラインツール(例: Airflowタスクの一部として実行)に組み込む形で利用されました。

導入によって得られた成果

DuckDBの活用により、以下のような定量的・定性的な成果が得られました。

定性的には、分析担当者がより気軽にデータを探索できるようになり、新しい知見の発見につながる可能性が高まりました。また、OSSを活用し内製で課題を解決した経験は、技術部門のスキルアップと組織文化の醸成にも寄与しました。

直面した課題と克服

DuckDBの導入・活用において、いくつかの課題にも直面しました。

これらの課題は、OSSの特性を理解し、既存のシステムや運用体制と組み合わせることで克服していきました。

まとめと今後の展望

本事例は、DuckDBのような特定の機能に特化したOSSを戦略的に活用することで、高額な商用ライセンスコストを削減しつつ、データ分析ワークフロー全体の効率を向上させることが可能であることを示しています。特に、ローカルでのアドホック分析や、ETL/ELTパイプラインの特定ステップにおける高速なデータ変換処理において、DuckDBはその価値を最大限に発揮しました。

この事例から得られる教訓は、既存の「全体最適」を目指す高コストな基盤に加えて、特定の課題を解決するための「部分最適」なOSS活用が、組織全体の効率化とコスト削減に大きく貢献しうるということです。技術部門責任者としては、既存の技術スタックに囚われず、新しいOSSの可能性を評価し、組織の具体的な課題に対して最も費用対効果の高いツールを選択する戦略が重要になります。

今後は、DuckDBの活用範囲をさらに広げ、特定の部門でのデータ活用促進や、機械学習の前処理パイプラインへの組み込みなども検討していく方針です。OSSエコシステムの進化は速く、常に新しいツールが登場しています。こうした新しいOSSを継続的に評価し、組織の効率化・コスト削減につなげていくことが、クラウドネイティブ時代における技術部門の重要な役割であると考えています。